はじめに
【データシートの読み方】シリーズの記事は下記を目的として作成しています。
- 電子部品のデータシートにありがちな説明不足を補い、
- データシートに記載されているたくさんの情報の中から、要点を抽出し解説する
今回は、パワー MOS FET(以下『FET』と記載)の絶対最大定格について、各パラメータを解説していきます。重要なパラメータについては詳しく、そうでもないパラメータについてはサラっと解説します。
パワーMOS FETの『絶対最大定格』とは?(各パラメータの設計ポイント)
✔️ゲート・ソース間電圧(Vgs)
✔️ドレイン・ソース間電圧(Vds)
✔️ドレイン電流(ID)
✔️アバランシェ電流・エネルギー(IAS・IEN)
✔️ジャンクション温度(Tj)、チャネル温度(Tc)
『絶対最大定格』自体の意味についてはこちらの記事で解説しています!
FETのデータシートに記載される絶対最大定格としては、以下が一般的です。
ドレイン・ソース間電圧(Vds)/ゲート・ソース間電圧(Vgs)
Vdsは、ソース電圧に対する、ドレインの電圧です。
例えば、
ソース電圧が0V、ドレイン電圧が40Vであれば、Vds=+40
(ソース電圧<ドレイン電圧で使用するNch MOS FETは「+」で定義されます)
ソース電圧が40V、ドレイン電圧が0Vであれば、Vds=−40V
(ドレイン電圧<ソース電圧で使用するPch MOS FETは「-」で定義されます)
と、なります。
ちなみに、FETがオンしているときはドレイン電圧≒ソース電圧となるので、当然Vds≒0Vです。
つまり、Vdsは、FETオフ時に許容されるドレイン・ソース間の電位差、と認識しておけばOKです。
VgsもVdsと同様の考え方でOKです(ドレインがゲートに変わっただけ)。
(Vgsは、ソース電圧に対する、ゲートの電圧です。)
ただし、ゲート電圧とソース電圧の電位差は、FET「オン時」に大きくなりますので、VgsはFETオン時に許容される、ゲート・ソース間の電位差、となります。
ドレイン電流(ID)
ドレイン電流はFETオン時にドレイン・ソース間に流すことができる最大電流値で、FETのパワーを示す重要なパラメータです。
ドレイン電流の絶対最大定格には、『直流』(ID)と、『パルス』(IDP)の2種類があります。
『直流』は、FETに流し続けることができる電流値です。
『パルス』は、『直流』よりも大きな電流を許容できますが、時間制約があります(数us)。
つまり、比較的長い時間軸での実効値が『直流』の規定値以下、短い時間軸でのピーク電流値が『パルス』の規定値以下となる条件で使用するイメージです。
ドレイン電流の値はチャネル温度上昇に直結しますが、ドレイン電流の定格を守っていても、部品の実装条件によってはチャネル温度の定格を満足できるとは限らない点に注意が必要です。
アバランシェ電流・エネルギー(IAS・EAS)
アバランシェ電流・エネルギーは許容損失の大きいパワーMOS FETで規定されることのある項目です。
ドレイン・ソース間電圧の絶対最大定格を超えても少し(の時間)であれば許容するよ、という規定です。モータなどの誘導性負荷をオフした場合に瞬間的に発生するフライバック電圧を想定したものだと思われます。
ドレイン・ソース間電圧の絶対最大定格を超えると、FETは逆降伏状態に至ります。逆降伏状態とは、ツエナダイオードのオン状態と同じです。このとき、ドレイン・ソース間に電流が流れ、電圧は逆降伏電圧でクリッピングされます。このとき、ドレイン・ソース間に流れる電流をアバランシェ電流(エネルギー)と呼びます。
アバランシェ大量を期待した使用はFETの破損を招く可能性があるため、よほどの理由がなければドレイン・ソース間電圧の絶対最大定格以下で使用することが望ましいでしょう。(確実に定格を守れるのであれば良いのですが...)
誘導性負荷によるフライバック電圧はフリーホイールダイオードなどで対策可能です。
ジャンクション温度Tj(チャネル温度Tc)
ジャンクション温度および、熱抵抗については下記の記事で詳しく解説しています。
まとめ
以上がFETにおける一般的な絶対最大定格の項目となります。
本記事では、FETの絶対最大定格として規定されることの多い『ゲート・ソース間電圧』、『ドレイン・ソース間電圧』、『ドレイン電流』、『アバランシェ電流・エネルギー』、『ジャンクション温度』について解説しました。
その他、FETのデータシートを理解するためには、絶対最大定格のみでなく『電気的特性』や『ゲート電荷量特性』について理解する必要があります。こちらについては別途記事にします。
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