あらゆる電子部品は要求される電源電圧、入力電圧、出力電圧の仕様が異なるため、アナログ回路は当然のことながら、デジタル回路においても複数の電源が一つの回路に混在します。
電源仕様の異なるデバイス間でデジタル信号をやりとりする場合、当然のことながら電圧レベルを合わせる必要があります。
電圧レベルを合わせるためには、電圧レベルを変換する回路が必要となります。電圧レベルを変換することを「レベルシフト」と呼びます。
本記事では、デジタル回路のレベルシフトについて、考え方から詳しく説明します!(本記事はやや初心者の方向けです)
✔️デジタル信号におけるレベルシフトの考え方
✔️レベルシフトの3つの方式 メリットとデメリット
(「抵抗分圧」、「トランジスタ・FET」、「ロジックIC」)
はじめに
電源や入出力電圧仕様は電子部品によって異なる
電子部品の電源電圧
マイコン、FPGA、ロジックIC、他、電子部品に供給する電源電圧の要求仕様は部品ごとに大きく異なります。デジタル回路の電源電圧としては、5V、3.3V、1.2V、1.0Vなどが一般的です。
デジタル信号の入出力レベル
また、デジタル信号の入力電圧、出力電圧に関する仕様も部品に応じて異なります。
入力電圧
入力電圧の仕様としては、入力端子に対する絶対最大定格(これを超えた電圧を印加すると部品が壊れる)および推奨動作定格(これを超えた場合、電気的仕様が保証されない)や、論理判定閾値(ハイレベル、ローレベルの閾値)があります。
(絶対最大定格、推奨動作定格の考え方は下記の記事で詳しく解説しています!)
出力電圧
出力電圧の仕様としては出力電圧範囲(ハイレベル、ローレベルそれぞれ)があります。出力する電圧がHレベルのときは何V〜何V、Lレベルのときは何V〜何V、という範囲で保証されます。
デジタル回路における電圧レベルの考え方
部品によって入出力電圧仕様が異なることは説明しました。
これらの仕様が異なる部品間でデジタル信号をやりとりする(電子回路を構成する)ための「考え方」を以下に説明します。
ハイレベル
- 後段デバイスが破損、誤動作しない範囲で使用するため、前段デバイスのハイレベル出力電圧(VoH)の最大値が、後段デバイスの入力端子に対する絶対最大定格(VI)、できれば推奨動作定格(VI)の最大値を超えないこと。
- 前段デバイスがハイレベルを出力したとき、後段デバイスが確実にハイレベルと認識できるようにするため、前段デバイスのハイレベル出力電圧(VoH)の最小値が、後段デバイスのハイレベル判定閾値(VIH)の最小値を上回ること。
ローレベル
- 後段デバイスが破損、誤動作しない範囲で使用するため、前段デバイスのローレベル出力電圧(VoL)の最小値が、後段デバイスの入力端子に対する絶対最大定格(VI)できれば推奨動作定格(VI)の最小値を上回ること。
- 前段デバイスがローレベルを出力したとき、後段デバイスが確実にローレベルと認識できるようにするため、後段デバイスのローレベル出力電圧(VoL)の最大値が、後段デバイスのローレベル判定閾値(VIL)の最大値を上回ること。
電圧レベルの考え方まとめ
以上のハイレベル、ローレベル時の考え方を下図にまとめます。

電圧レベルを変換する回路(レベルシフト回路)
電圧を変換する回路はいろいろありますが、代表的な回路についてひとつづつ検証していきます。
抵抗による分圧
まず、電圧変換と聞いてピンとくるのが、単純に抵抗を二つ使った分圧回路だと思います。
5Vの信号を3.3Vに変換する回路は、たとえば下図のようになります。

本回路をオームの法則で計算すれば、出力電圧は3.3Vとなることが分かります。
抵抗分圧によるレベルシフトのメリット
- 簡易な構成であるため低コストで実現可能
抵抗分圧によるレベルシフトのデメリット
- 抵抗値が小さいとハイレベル入力のときの消費電力が大きくなる(前段ドライバの出力電流仕様を超えないよう注意!)
- 抵抗値が大きいと波形が鈍るため、高周波の信号には使用できない
- 出力インピーダンスが高い(この回路自体が負荷となる)
- (入力、出力インピーダンスについては下記の記事で詳しく解説しています!)
トランジスタやFETを用いた回路
トランジスタやFETを使用してインバータ回路を構成し、電圧を変換することができます。
5Vの信号を3.3Vに変換する回路は、たとえば下図のようになります。
オープンコレクタの標準ロジックなどでも実現できます。

トランジスタやFETを用いた回路によるレベルシフトのメリット
- 入力インピーダンスが高いため、消費電力が小さい
- 抵抗分圧の方式よりも出力インピーダンスが低い(プルアップ抵抗の定数による)
- FETはスイッチング速度が速いため、やや高速な信号をレベル変換できる(数MHz程度)

⚠️ただし、出力段のプルアップ抵抗の定数が大きいと波形鈍りの原因となります。
- (入力、出力インピーダンスについては下記の記事で詳しく解説しています!)
トランジスタやFETを用いた回路によるレベルシフトのデメリット
- 抵抗分圧の方式と比較して回路構成がやや複雑になる
- 高速信号を扱う場合はトランジスタやFETのスイッチング特性やゲート抵抗の定数を考慮した設計が必要となる
- (FETのスイッチング特性やゲート抵抗の決め方については、下記の記事で詳しく解説してあります!)
- 論理が反転するため、論理反転を嫌う場合は本回路が二段必要となる
ロジックICを用いた回路
ロジックICで信号を中継することにより、信号をレベルシフトすることができます。
といっても、レベルシフト専用のICをが必要になるワケではありません。
NOR、AND、ORなど、一般的なロジックゲートや、バスバッファを用いてレベルシフトを実現できます。
ただし、ロジックICの「シリーズ」を気にする必要があります。

ロジックICのシリーズとは、そのICに使用される技術や、ICの特性に基づき分類される集積回路のグループです。入力/出力電圧、動作速度(遅延時間)、消費電力などが異なります。
例えば、シュミットインバータ「74HCT14」のシリーズは「74HCT」です。
例1:3.3V信号を5V信号に変換する場合
例えば、3.3V信号を5V信号にレベルシフトする場合、74HCTシリーズのロジックICで実現できます。
74HCTシリーズはTTL互換入力とCMOS出力を持ちます。
- TTL互換入力は、論理判定閾値が電源電圧に依存せず、Hレベルは2.0V以上、Lレベルは0.8V以下で動作します
- CMOS出力電圧は電源電圧に依存します(Vo ≒ Vcc)
つまり、74HCTシリーズは5V電源で動作(出力電圧は5V)しながら、3.3Vの入力信号を論理判定できるため、レベルシフトが成り立ちます。
下図に抜粋しますが、ICのデータシートの電気的特性を確認するとその意味が分かると思います。

例2:5V信号を3.3V信号に変換する場合
逆に、5V信号を3.3V信号にレベルシフトする場合は、74LVCシリーズのロジックICで実現できます。
74LVCシリーズは5Vトレラント入力とCMOS出力を持ちます。
- トレラント入力は、自身の電源電圧を超えた入力電圧を許容できる機能です。
(「5Vトレラント」とは入力電圧が電源電圧を超えても5Vまでは許容できることを意味します) - CMOS出力電圧は電源電圧に依存します(Vo ≒ Vcc)
つまり、74LVCシリーズは3.3V電源で動作(出力電圧は3.3V)しながら、5Vの入力電圧を許容することができるため、レベルシフトが成り立ちます。
下図に抜粋しますが、ICのデータシートの電気的特性を確認するとその意味が分かると思います。

そのまま使える実施例
レベルシフトしたい信号の数が多ければレベルシフト用にバスバッファ(74LVC/HCT244や255)などを準備するのが安価で一般的な構成です。
ただ、1信号だけレベルシフトしたいのにもったいない、という場合には、別回路の余ったゲートや1ゲート、2ゲート入りのロジックICを使用する手もあります。

ロジックICを用いた回路によるレベルシフトのメリット
- 入力インピーダンスが高いため、消費電力が小さい
- 出力インピーダンスが低い(適したシリーズを採用することで数十mAの電流を駆動可能)
- (入力、出力インピーダンスについては下記の記事で詳しく解説しています!)
- 高速信号に対応できる(適したシリーズを採用することで数十〜数百MHzにも対応可能)
- 多本数の場合、実装面積を小さく抑えられる
ロジックICを用いた回路によるレベルシフトのデメリット
- 部品コストがやや高い
- 単純な1ビットだけの変換にはオーバースペック気味(上記に記載した余ったゲートを使用する手もある)
まとめ
紹介した『抵抗分割』の方式、『トランジスタやFETを用いた回路』の方式、『ロジックICを用いた回路』の方式について、メリット、デメリット、おすすめな用途をまとめます!

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