【データシートの読み方】シリーズの記事は下記を目的として作成しています。
- 電子部品のデータシートにありがちな説明不足を補い、
- データシートに記載されているたくさんの情報の中から、要点を抽出し解説する
第一回目は、個別の部品ではなく、基礎的な前提知識として多くのデータシートに記載される以下の用語について解説します。
- 「絶対最大定格(Absolute Maximum Ratings)」
- 「推奨動作範囲(Recommended Operating Conditions)」
- 「電気的特性(Electrical Characteristics)」
DC特性(DC Characteristics)
AC特性(AC Characteristics)
絶対最大定格と推奨動作範囲
『絶対最大定格』と『推奨動作範囲』は、その部品の使用条件(外的要因)を規定します。
例えば対象部品に対して、使用できる周囲温度、印加できる電圧、流せる電流などが規定されます。
『絶対最大定格(Absolute Maximum Ratings)』とは
「一瞬たりとも超えてはならない定格」を意味し、これを超えた環境では部品が破損します。
絶対最大定格に対しては、十分なマージン(余裕)をもって設計する必要があります。
『推奨動作範囲(Recommended Operating Conditions)』とは
「正常に動作することが保証された範囲」を意味し、これを超えると部品の性能が引き出せず、誤動作に至ります。
推奨動作定格に対してマージン(余裕)をとるかどうかは、設計するシステムに要求される信頼性によって異なります。
『絶対最大定格』と『推奨動作範囲』の違い
『絶対最大定格』と『推奨動作範囲』の違いは、超えたときに破損に至るか否か、です。
『推奨動作範囲』を超える環境では、部品の正常動作が保証されなくなりますが、一方で『絶対最大定格』を超えなければ、破損に至ることはありません。
『絶対最大定格』と『推奨動作範囲』の関係を下図に示します。
電気的特性
『電気的特性』は『絶対最大定格』や『推奨動作範囲』と同じように各パラメータがデータシート上で羅列されているため混同されがちですが、これらとは似て非なるものです。
『電気的特性(Electrical Characteristics)』とは
「部品自身の性能・仕様を定義」したパラメータです。
例えば、その部品の消費電力、外部入力電圧に対する論理閾値、などがあります。
電気的特性は、『DC特性(DC Characteristics)』や『AC特性(DC Characteristics)』に分別されることがあります。
DC特性(DC Characteristics)
『DC特性』は、その名の通り「直流特性」を意味します。
オシロスコープで測定する場合の”縦軸”に関する特性と考えると、分かりやすいかもしれません。
「電流値」、「電圧値」、等が『DC特性』にあたります。
AC特性(AC Characteristics)
『AC特性』は、「交流特性」を意味し、アナログ回路の周波数応答特性が元となっていますが、昨今ではデジタル回路における、「タイミング特性」を意味します。
オシロスコープで測定する場合の”横軸(時間軸)”に関する特性と考えると、分かりやすいかもしれません。
「立ち上がり/立ち下がり時間」、「セットアップ時間」、「ホールド時間」、等が『AC特性』にあたります。
『絶対最大定格』、『推奨動作定格』と『電気的特性』の違い
『絶対最大定格』や『推奨動作範囲』と『電気的特性』との違いをすごく簡単に言うと、以下のイメージです。
『絶対最大定格』『推奨動作定格』 : ”この部品は「・・・」の条件で使用すること“
『電気的特性』 : ”この部品の性能・仕様は「・・・」です“
「・・・」の部分が各部品のデータシート上で具体的なパラメータとして表記されます。
設計例
電源ICで生成した電源をロジックICへ供給する例を考えます。
1)”電源ICが出力する電圧”が、2)”ロジックICの電源に要求される仕様”を満足するか?確認する必要があります。
1)電源ICが出力する電圧は、電源ICの「性能・仕様」ですので、電源ICのデータシートに『電気的特性』として、その出力電圧範囲が記載されています。
2)ロジックICの電源に要求される仕様は、ロジックICへ印加可能な電源電圧、つまりロジックICの「使用条件」ですので、ロジックICのデータシートに『絶対最大定格』または『推奨動作範囲』として規定されています。
このように、1)で確認した電圧範囲が、2)で確認した電圧範囲に収まっていることを確認します。
まとめ
『絶対最大定格』、『推奨動作範囲』、『電気的特性』の意味は、知ってしまえばその言葉通りであり、何も違和感はありませんが、慣れない内は混同することもあると思います。
下表に、本記事の内容をまとめます。
項目 | 説明 | 違反した場合 | パラメータの例 |
絶対最大定格 | デバイスの(外的)環境・条件を定義 | 部品が破損する | 電源電圧 入力電圧 周囲温度 |
推奨動作範囲 | 同上 | 電気的特性が保証されない | 同上 |
電気的特性 | デバイスの性能・仕様を定義 | - | 消費電力 入力論理閾値 |
今後、個別部品に対し、データシートに記載される『絶対最大定格』、『推奨動作範囲』、『電気的特性』の具体的なパラメータを説明していく予定です。
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