はじめに
【データシートの読み方】シリーズの記事は下記を目的として作成しています。
- 電子部品のデータシートにありがちな説明不足を補い、
- データシートに記載されているたくさんの情報の中から、要点を抽出し解説する
今回は、パワー MOS FET(以下『FET』と記載)の電気的特性の第一弾ということで、一部のパラメータを解説していきます。重要なパラメータについては詳しく、そうでもないパラメータについてはサラっと解説します。
パワーMOS FETの『電気的特性』とは?(以下パラメータの設計ポイント)
✔️オン抵抗(RDSon)
✔️ドレイン・ソース降伏電圧(V(BR)DSS)
✔️ゲート閾値電圧(VGS(th))
✔️順方向アドミタンス(|Yfs|)
✔️ドレイン遮断電流(IDSS)
✔️ゲート漏れ電流(IGSS)
『電気的特性』自体の意味についてはこちらの記事で解説しています!
FETのデータシートに記載される上記電気的特性について、以下に解説していきます!
オン抵抗 RDS on
オン抵抗とはFETオン時のドレイン・ソース間抵抗のことです。
データシートの電気的特性には、FETが完全にオンしきった(ゲート・ソース間電圧が十分に大きい場合の)値が記載されています。詳細はデータシートに「条件」として記載してあるはずです。
FETが『オン』しているとき
FETがオンしているとき、ドレイン・ソース間抵抗は「ほぼ」ゼロじゃないの?と思われるかもしれませんが、この「ほぼ」が重要となってきます。
FETのジャンクション温度は以下の式で算出します。詳細はこちらの記事を参照してください。
Tj = RDSon ・ ID2 ・ 熱抵抗
RDSonは数十mΩ程度の場合もあり、比較的小さな抵抗値ですが、ドレイン電流の2乗に乗じる形で効いてくるので、ジャンクション温度に大きな影響を及ぼします。
よって、オン抵抗はジャンクション温度上昇度合いの指標となり、これが小さいほど高性能な部品であると言えます。
また、オン抵抗は温度依存性が高いことに注意が必要です。
ジャンクション温度を机上計算するうえで用いるオン抵抗値は、データシートに記載されているRDSon-Tc(ケース温度)グラフから読み取ることができます。
これをみれば明らかですが、例えば周囲温度60℃の環境では、周囲25℃の環境と比較してオン抵抗値が2倍くらいになっていることが分かります。
電気的特性に記載されているオン抵抗値は通常、周囲25℃の条件となっていますので注意してください。
FETが『オフ』しているとき
当然のことですが、FETがオフしているとき、ドレイン・ソース間抵抗は非常に大きな値となっています(ハイ・インピーダンス)。
FETが『過渡状態』のとき
FETがオフしているとき、ゲート・ソース間電圧を上げていくと、ある電圧値を超えたところで電流が流れ始め、オン抵抗が急激に小さくなります。
ご存じのとおり、これは半導体の最も重要な特徴で、半導体がデジタル的な(オン/オフの2値で)動作を行える所以ですが、オンとオフの『中間』はアナログ的に存在します。
FETを頻繁にスイッチングさせて使用する場合にはこの『中間』が厄介なものとなります。
FETがオンする過程では、ゲート・ソース間電圧がゲート閾値(後述)を超えるとドレイン電流が流れ始めますが、オン抵抗が下がり切るまでに少し時間がかかります。
※この特性については機会があればまた別の記事に記載します。
よって『中間』では、損失(RDSon ・ ID2 )が大きくなり、ジャンクション温度が上昇します。
例えば、DC/DCコンバータやモータ駆動回路のPWM制御など、高速でFETをスイッチングする場合に注意が必要です。
よって、熱損失の観点ではFETのターンオン・オフ時間は可能な限り短くすることが望ましい、と言えます。(『中間』を通る時間をできるだけ短くしたほうが良い)
FETのターンオン・オフ時間を短くするためには、ゲート抵抗を小さくするか、入力容量の小さいFETを選定する必要があります。詳細は下記の記事に記載しています。
余談ですが、世の中のスマホやパソコンはたくさんの微小なFETで構成されています。
これら電子機器は処理速度が速くなるほどデバイスが熱くなる印象があると思いますが、これはFETのスイッチング周波数が速くなるほど、FETが『中間』を通る回数が増え、熱損失が大きくなるためです。
繰り返しとなりますが、FETのオン抵抗は小さければ小さいほど良い、ということになります。
ドレイン・ソース降伏電圧 V(BR)DSS
ドレイン・ソース間電圧が絶対最大定格を超えると、FETの寄生ダイオードが逆降伏し、FETがオフしているにも関わらず、電流が流れます。
この電流はアバランシェ電流と言い、データシートの絶対最大定格欄に記載されていることがあります。
アバランシェ電流の詳細については下記の記事に記載しています。
ドレイン・ソース間降伏電圧はFETオフ(ゲート・ソース間電圧=0)のときに逆降伏が起きるドレイン・ソース間電圧の閾値です。
本パラメータは、ドレイン・ソース間電圧の絶対最大定格をミニマムとして設定されている場合が多く、これの意味するところは「ドレイン・ソース間電圧の絶対最大定格を超えたら、いつ降伏状態になってもおかしくないですよ」ということです。
よって、ドレイン・ソース間電圧の絶対最大定格を守って使用していれば、特に気にする必要のないパラメータです。
ゲート閾値電圧 VGS(th)
FETをオンするために必要なゲート・ソース間電圧の閾値をゲート閾値電圧と言います。
ただし、本パラメータは、FETがオンし始める閾値であることに注意が必要です。
ゲート・ソース間に、ゲート閾値電圧ピッタリを印加しても、FETとしてはまだ半クラッチ状態で、オン抵抗が非常に高い状態です。
オン抵抗を十分に小さくするには、ゲート・ソース間電圧をもっと(もっと)大きくする必要があります。
下記に、RDS(on)・VGS特性を示します。
ゲート閾値電圧付近のオン抵抗が高い領域(上図赤線部分)で使用すると、損失(RDSon ・ ID2 )が大きくなり部品が破損する可能性があります。
オン抵抗が十分に低い領域で使用するために必要なゲート・ソース間電圧はゲート閾値電圧ではなく、VGS-RDSon特性グラフで確認した方が良いということになります。
つぎに、FETのID-VDS特性を示します。
印加するゲート・ソース間電圧に応じて、グラフの傾きが異なることが分かります。
ドレイン電流はゲート・ソース間電圧だけでなく負荷抵抗の影響を受け変化しますが、同じドレイン電流を流す場合であれば、ゲート・ソース間電圧が大きいほど、ドレイン・ソース間電圧が低くなることが分かります(これはゲート・ソース間電圧が高くなるほどオン抵抗が低下することとほとんど同義です)。
例えば、VGS=VGS(th)=2.5Vの状態で5Aのドレイン電流を流したとき、VDS=−1Vとなり、損失は5A・1V=5Wです。
一方、VGS=−10Vの状態で同じ5Aのドレイン電流を流したとき、VDS=-0.04Vとなり、損失は5A・0.04=0.2Wとなり、その差は歴然です。
以上、VGS-RDSon特性や、ID-VDS特性からも分かるとおり、実使用上必要なゲート・ソース間電圧は、ゲート閾値電圧の2倍程度を目安にすると良いと思います。
VGS(th)付近で使用すると損失が大きくなるばかりでなく、必要なドレイン電流を流すことができなくなる可能性があります。上記ID-VDS特性の例では、VGS=-2.5Vのとき、VDSが大きくなるにつれ、IDの変化量が緩やかになっていくことが分かります。このように、FETにはVDSを大きくしていくとIDがやがて飽和するという特性があります。飽和領域でFETは定電流源として振る舞い、それ以上の電流を流すことができなくなります。VGS=-4.5Vや-10Vの飽和領域は、上図から読み取れないほどずっと上の方にあり、VGS=-2.5Vの場合と比較して大きなドレイン電流を流すことができます。
順方向アドミタンス(|Yfs|)
順方向アドミタンスは、ゲート・ソース間電圧に対するドレイン電流の変化率(ΔID/ΔVGS)を示します。
数値が高いほど「感度」が高いということになります。
ID-VGS特性の傾きは一定ではないため、順方向アドミタンスはある条件における一点の数値が記載されています。
そのため、この数値自体にあまり意味はなく、必要な情報はID-VGS特性のグラフから読み取れば良い、ということになります。
ドレイン遮断電流(IDSS)
ドレイン遮断電流とは、FETオフの状態でドレイン・ソース間電圧(絶対最大定格値)を印加したときにドレイン・ソース間に流れる電流です。
当然、FETオフ状態で大きな電流が流れたら困りますので、規定値としてはごく小さな値となります。(マイクロ・アンペアとかです。)
セットが非稼働時の消費電力性能を示すパラメータであり、値が低いほど高性能なFETと言えます。
電池駆動のデバイスなど、待機電力に対する要求が厳しい場合には重要視されることもありますが、そうでなければあまり気にする必要のないパラメータです。
ゲート漏れ電流(IGSS)
ゲート漏れ電流は、ゲート・ソース間にある電圧(通常は絶対最大定格)を印加した際に流れる漏れ電流です。
FETは電圧駆動が特徴ですので、その値は当然、非常に小さく(上記ドレイン遮断電流よりもさらに小さい)、ナノ・アンペアオーダで示されることもあります。
ドレイン遮断電流と同様、省エネ性能を示すパラメータで、値が低いほど高性能といえます。
電池駆動のデバイスなど、待機電力に対する要求が厳しい場合には重要視されることもありますが、そうでなければあまり気にする必要のないパラメータです。
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